6月下旬に天皇陛下がインドネシアを訪問した。エリザベス女王の葬儀出席を除けば即位後初の外国訪問となる。インドネシアは人口2.7億人、世界第4位の大国。JETROの資料によると2019年現在、インドネシアへの進出企業数は1,489社。アジア、オセアニア地域における日系企業の進出数は中国、タイに次いで3番目。日本とも縁の深い国だ。インドネシアの現状と課題についておさらいしてみよう。

 2011年から2015年、インドネシアの民主化が進展、経済成長率は年率平均5.5%に達し、日本企業の進出ラッシュが続いた。その後新型コロナの流行、中国経済の低迷などの影響で経済成長率は-2.0%迄落ち込んだが、2022年には5%台に回復した。23年も国内消費に支えられ、5%を維持する見込みだ。

中間所得層が増加し巨大な消費市場が成長しつつある。現在名目国内総生産(GDP)はASEAN域内の35%を占める。

  日本からの直接投資は、2016年以降横這い状態が続いているが、シンガポールに次いで第2位。近年中国が台頭している。業種別の直接投資残高でみると二輪、四輪など自動車産業及び関連部品産業の割合は高いものの、近年は非製造業の進出が加速している。

インドネシアの投資メリットは市場規模・成長性であり、2019年度のジェトロの実態調査でも83.4%の日系企業がメリットとして挙げている。国連・世界人口予測では2030年までに人口が約3億人に達し、上位中間層が約1,000万世帯増加するとの予測が背景にある。近年では非製造業の進出が増加しているが、人件費の安さ、従業員の雇いやすさをメリットとして挙げている。さらに駐在員の生活環境も格段に改善している。工業団地の集積するブカシ、カラワン地区には日系企業駐在員用アパート、日本食レストラン、スーパーマーケット、大型ショッピングモール、日本人学校の分校が整い、ジャカルタ西ジャワ間の鉄道路線も建設中である。

  ジェトロの日系企業実態調査によると、投資環境上のリスクの第一は人件費の高騰があげられる。人件費の高騰は頭の痛い問題だ。日系企業だけではなく地場の経済団体からも生産性の向上が、賃金上昇に追い付かず、「法定最低賃金」は生産性から見た場合「妥当ではない」とする評価が過半数である。

  第二のリスクは税制、税務手続きの煩雑さである。2015年以降税務調査で200億ルピア(約1億6千万円)の更正通知を受け取るケースが増加している。背景には首都移転計画をはじめとした年々増加する国家予算がある。

  第三の経営上のリスクは、業種、業態によって異なる複雑な規制だ。代表的なのが輸入ライセンスの取得手続き。規制の変更も頻繁にあり、JETROの調査で貿易円滑化の必要性があると回答した日系企業は88.5%に上る。

  またインドネシアで事業展開を決断し、法人の設立をしようとすると、様々な外資規制を理解しなければならない。2007年に制定され2016年に改正された「新投資法」によると「条件付きで解放されている事業」が大統領令で定められている。国内産業保護と外国資本導入のバランスを図るものだが、実際の進出時には個別にインドネシア投資調整庁(BKPM)への確認が必要となる。このように法制度のリスクも侮れない。

インドネシアに進出する企業の半数以上は、卸売り、小売り、運輸業などを中心に事業拡大の余地があると回答していている。来年にはインドネシアの総選挙があるが、いまのところどの大統領候補も現職のジョコ路線を大きくは変えないものとみられている。日本企業にとってインドネシアは魅力的な国である。リスクを踏まえ長期的視点に立った進出計画が望まれている。

以上

この記事を書いた人